前回の記事では、外国衛星網から受ける干渉にはいくつかのパターンがあることをご紹介しました。
では、その干渉が実際に問題となるかどうかは、どのように判断しているのでしょうか。
世界無線通信規則(RR)に基づく周波数調整では、新たな衛星網が既存の衛星網へ有害な干渉を与えるかどうかを評価します。その際には、干渉の大きさを数値で計算し、あらかじめ定められた指標と比較することで干渉の有無を判断します。
BS放送周波数帯では、その評価において「ΔT/T」や「PFD」といった指標が用いられています。
今回は、これらの指標が何を表しているのか、そしてどのように干渉の大きさを評価しているのかをご紹介します。
■ΔT/Tとは?
ΔT/T(デルタTオーバーT)は「干渉によって雑音がどれだけ増えたか」を割合で表した指標です。例えば、静かな部屋で会話しているときに周囲の騒音が増えると、相手の声が聞き取りにくくなります。衛星通信でも同様に、干渉によって雑音が増加すると受信品質が低下する可能性があります。
もう少し詳しく説明すると、干渉波が受信設備に与える影響を、「雑音の増加量」として評価するときに用いる指標が、「ΔT/T」で、干渉電力/受信機雑音電力を表します。「Δ(デルタ)」は増加分や変化量を表す記号です。
衛星通信では雑音の大きさは「雑音温度」に比例します。雑音温度の単位には温度と同じケルビン(K)が用いられますが、実際の機器の温度を表しているわけではありません。干渉波の電力を雑音温度へ換算し、衛星通信では雑音の大きさを温度の単位で表現することが一般的です。
(換算方法に興味がある方は、「ボルツマン定数」を調べてみてください。ボルツマン定数は、エネルギーと温度の関係を表す物理定数で、衛星通信では雑音電力と雑音温度を結び付ける重要な役割を果たしています。)
例えば、
受信機の雑音温度:100K
干渉による雑音温度:6Kであれば、
雑音温度の増加量ΔT/T=6K÷100K=6% となります。
つまり、干渉によって雑音電力が6%増加したことを意味します。
外国衛星網との周波数共用を検討する際には、このΔT/Tが許容範囲内に収まっているかを確認します。一般的にΔT/Tが6%以下であることが求められています。
■PFDとは?
もう一つの重要な指標が、PFD(Power Flux Density:電力束密度)です。
PFDは、「単位面積あたり、単位周波数帯域あたりに到達する電力」を表す指標です。
単位には一般的にdB(W/m²/Hz)が用いられます。
少し難しく見えますが、
W:電力
m²:面積
Hz:周波数帯域幅
を表しており、
「1平方メートルあたり、1Hzあたりにどれだけの電力が到達するか」
を示しています。
例えば、懐中電灯を壁に向けることを考えてみましょう。
同じ明るさの懐中電灯でも、光が狭い範囲に集中していれば明るく見えますし、広い範囲に広がれば一か所あたりの明るさは小さくなります。
PFDもこれと似た考え方で、ある場所に到達する電波エネルギーの大きさを評価しています。
電波が強すぎると、同じ周波数帯を利用する他の衛星通信システムや無線システムへ影響を与える可能性があります。
そのため、世界無線通信規則(RR)では、PFDの上限値、あるいは、調整閾値が定められています。
新たな衛星システムを導入する際には、計算したPFDがこの上限値を超えないことを確認します。また、調整閾値を超えていれば被干渉衛星網と調整を行います。
■なぜこのような評価が必要なの?
衛星通信で利用できる周波数は有限です。
一方で、静止衛星だけでなく、近年は多数の非静止衛星も運用されるようになり、限られた周波数や軌道を複数の衛星システムで共用する機会が増えています。
そのため、新たな衛星網を導入する際には、既存の衛星網へどの程度の影響を与えるのか、あるいは既存の衛星網からどの程度の影響を受けるのかを事前に確認する必要があります。
世界無線通信規則(RR)に基づく周波数調整では、今回ご紹介したΔT/TやPFDのほかにも、衛星軌道位置やサービスエリアなど様々な条件を用いて総合的な評価が行われています。
その中で、ΔT/Tは「既存システムの雑音がどの程度増加するか」、PFDは「どの程度の強さの電波が到達するか」を評価するための代表的な指標です。
B-SATでも、新たな衛星網との国際調整において、これらの基準に基づき干渉の影響を確認しています。
このような評価は、単に周波数共用の可否を判断するためだけのものではありません。評価結果は最終的に、BS放送をどの程度安定して視聴できるかという放送品質の評価にも利用されています。
次回は、今回ご紹介したΔT/TやPFD、そして降雨減衰の評価結果が、BS放送を視聴できる時間の指標である「サービス時間率」とどのように関係しているのかをご紹介します。